歯周治療や矯正、審美などの自費専門クリニックでの経験を活かし、現場介入型の研修事業を行う大久保加奈さん。全国各地に契約歯科医院を持ち、年間220件を超える院内研修を行っている。
PROFILE
複数の自費専門歯科クリニックにて16年勤務するなど、歯科衛生士歴20年。2022年、フリーランスとして現場介入型の医院研修事業を開始。2023年、Sherpa.株式会社を設立。各分野のスペシャリストと提携し、歯科医院の成長を多角的にサポートしている。

―Sherpa.では、どのような医院研修を行っているのでしょうか?
大久保 歯科医院さんによって内容は様々ですが、歯周基本治療などのペリオに関係するスキルアップや仕組作り、自費率を高めるためのカウンセリング教育などを依頼されることが多いですね。咬合などを考慮したフルマウスでの治療計画を理解できることが私の強みではないかなと思います。それから、スタッフ教育をベースとしたチームビルディングをご依頼いただくことも多いですね。臨床のスキルアップももちろんですが、意識改革に重点を置いています。実際、多くの歯科衛生士はアポイントで管理されているためか、空いている時間に率先して動いたり、自分で考えて動くことが苦手な人が多いですし、そこに悩んでいらっしゃる歯科医院も多いです。

―具体的には、どのように研修を行っていくのでしょうか?
大久保 スタッフ一人ひとりと30分ほど面談して、その後、マンツーマンの個別コーチングを行っていきます。在り方自体が課題の人もいますし、スキルのレベルアップが課題の人がいたりと人によって目的は変わりますが、各々にマネジメントシートを作成して成長を促していきます。そんな中で、研修先の歯科医院と雇用契約を交わして、私自身が現場に入って臨床を行うことも可能です。臨床はもちろん働き方自体を実際に見てもらう方が早いですし、現場に入ることで歯科医院全体やそれぞれのスタッフの課題が分かりますから。
―研修先のスタッフさんとの関係も深くなりますものね。
大久保 研修を受けていただくスタッフさんとの関係性は重要視しています。スタッフ全員とLINE交換をして、「いつでも質問してきていいよ」とさせていただき、本当に一人ひとりをみてのコーチングをするのが私の特長ですね。特に、チーフをやっているようなある程度ベテランのスタッフさんからの相談が多いです。
―個々に合わせて教える大変さもあるのではないですか?
大久保 そうですね。私自身、もともと教えるということがそれほど得意な人ではありませんでしたので。湘南美容歯科時代は、業績が芳しくないクリニックに行って立て直すという本部側の仕事をしていたこともあり、教えられる側の気持ちに寄り添うよりも、成果ばかりを追求していたんです。スパルタすぎて、ふと気がつくと誰もついてきていなかったこともありました。私が行くと、立て直すか潰すかの二択で、代表からは「爆弾」というあだ名で呼ばれていたぐらいです。当時は私がきつく言っても、飴と鞭のような感じで先輩がフォローしてくれていたのでうまく回っていましたが、フリーランスとして研修事業をやっていくにあたり自分を省みて、一人ひとりの気持ちに寄り添ったコーチングを心掛けています。ただ、言うべきことはバシッと言いますけど(笑)

―研修先ではどのような成果がありましたでしょうか?
大久保 歯科医院さんそれぞれに成果は違いますが、自費率が1割から5割になったり、自費率が元々高いクリニックの場合は、それを維持しながら売上を向上させることができています。また、売上を向上しつつ診療時間を短縮したり、慰安旅行やボーナス還元など働くスタッフの福利厚生作りにも成果を出しています。それから、在り方教育も含め、医院の環境作りをしていくことで、離職対策になっている面はあると思います。
―現在は、どれぐらいの歯科医院さんに研修に行かれているのでしょうか?
大久保 全部で18医院で、定期的にお邪魔しているのが13医院です。大阪を中心にして、北は関東、南は九州までご依頼をいただいています。契約期間を設けていませんので、訪問先がどんどん増えていっている状況でスケジュール管理が大変です。小学生の子どもがいますので、日帰りを前提で考えると、大阪と全国各地を行ったり来たりの毎日ですね。

―今後の展望を教えて下さい。
大久保 訪問先をどんどん増やしていくというより、現在のクライアントをしっかり見ていきたいと考えています。また、業務委託という形で一緒に一緒にやってくれる歯科衛生士さんも増えてきましたので、私自身の研修活動は少し減らして、講演活動や学会発表を増やしていこうと思っています。歯科衛生士の価値を高めていくには、もっともっと影響力を持たなければいけないと思いますので。
―歯科衛生士の価値を高めるとはどういうことでしょう?
大久保 勤務医、歯科衛生士、受付、歯科助手、歯科技工士さんたちの人事評価制度を作成させていただたくこともあるのですが、保険算定の範囲内だけの評価は年次昇給していけるものではありません。しかも、保険算定には時間の概念と技術の概念がないため、結局は担当する患者さんの人数で貢献度が決まってしまうわけです。私自身それはちょっと違うなと思いますし、そういった点が歯科衛生士のキャリア形成の邪魔をしていると思います。そういった中で、歯科衛生士が自分たちの価値を高めていくためには、カウンセリングで自費メニューの提案ができるとか、自費診療の補助ができるとか、スタッフマネジメントに目を向けられるとか、業務範囲を広げていくことが大切だと考えています。

―それをサポートしていくのが大久保さんの使命というわけですね。
大久保 そうですね。最近、私の娘が「大人になったら歯医者さんで働きたい」と言うようになったんです。もし本当にそうなったときに、私がやっている事業をどう思うのかなと考えていまして、娘が認めてくれるような仕事にしていきたいというのはありますね。仕事も家庭もどちらも大切ですし楽しいですが、どうしても娘との時間が少なくなってしまうことも事実です。娘もそれを感じていると思いますので、そうまでしてでも取り組む価値のあるものだと思ってもらえるように頑張っていきたいと思います。
