「歯科衛生士に行動力を」をテーマに様々な事業を行っている、『株式会社D.HIT』の代表取締役・杉野奈央さん。歯科衛生士の活躍のフィールドを拡げるための活動を行う杉野さんに、その想いや、これまでの取り組み、今後の展望についてお伺いしました。
Profile
株式会社D.HIT 代表取締役
杉野奈央(すぎの・なお)
2006年、横浜歯科技術専門学校卒業後、一般歯科に勤務しながらフリーランスとしても活動。2020年、D.HITを設立し、歯科衛生士が様々なスキルを身に付け、多様な働き方が出来るようなサポートを行っている。
D.HIT
https://dhit.co.jp/
―『株式会社D.HIT』を設立された経緯を教えて下さい。
杉野 専門学校を卒業後、オープニングスタッフとして一般歯科に9年ほど勤務しておりました。ただ、普通の方とは少し違っていて、常勤ではあったのですが、クリニックにエステサロンを併設したり、他のクリニックに開業コンサルティングをさせていただいたり、フリーランスのような働き方をさせていただておりました。
―少しどころか、かなり珍しいスタイルですね。以前から起業への想いがあったのですか?
杉野 昔から様々なことに興味があるタイプで、歯科衛生士として何か他に出来ることはないのかということをずっと模索していました。また、予防医療という健康的な意味でも、美容的な意味でも、歯科衛生士がもっと社会に出て活躍した方がいいという想いが強くあります。そういった部分で、私がロールモデルになりたいという面もありました。クリニックを退職後に、ベンチャー企業に就職で歯科衛生士の研修事業などを立ち上げたりしていたのですが、どうしても組織の中にいては、自分のやりたいことを出来ない部分がありまして、それであれば自分で会社を作ってしまった方が早いなと、一念発起して起業することにしたのです。
―会社設立時には、予想外の事態もあったとお聞きしました。
杉野 会社を設立しようと思っていた矢先に新型コロナウイルスが流行りだしまして、それでも大したことがないと思い進めたところ、会社設立の1カ月後に緊急事態宣言が出てしまったのです。構想していたものが思うように進まなくなり、このときは非常に焦りましたね。それでも何かしなければと、完全歯科衛生士プロデュースで歯磨剤を作ろうというプロジェクトを立ち上げました。これまでも歯科衛生士監修という商品はあったのですが、実際は歯科医師が監修していたり、メーカーさんが全面に出ている場合が多かったので、本当に歯科衛生士の声だけで作るプロダクトを実現したかったのです。
―商品開発はどのようにして行ったのでしょうか?
杉野 まず、インスタグラムをしている歯科衛生士をハッシュタグで検索して、「一緒にやりませんか」とひたすらダイレクトメールを送りました。そうすると、2ヶ月半ぐらいで登録者が2,000人集まり、そのうちの1,000人の方がアンケートに答えていただけたのです。皆さんコロナ自粛で暇だったせいもあると思うので、この点だけで言えばタイミングが良かったですね。それから、たくさんの歯科衛生士さんとリアルでもオンラインでも話し合いを重ねました。成分、テクスチャー、味、香り、パッケージデザインなど、皆さんそれぞれに意見を持っていらっしゃって、ミーティングも盛り上がりましたね。
―どういった商品が出来上がったのですか?
杉野 家族全員で安心して使って欲しいとの想いから、合成界面活性剤不使用、フッ素無配合をベースに、むし歯や歯周病予防はもちろん、ホワイトニングや口臭予防にもこだわった理想の歯磨剤を作ろうということになりました。ただ、商品の構想はあっても、それを製造してくれる業者さんがいらっしゃらなければ何も進みません。インターネットで歯磨剤の製造会社を調べ、片っ端から電話をかけていったのですが、最初はほとんどが門前払いでした。それでも話を聞いていただける会社の工場に足を運び、こちらの想いをお伝えすることで何とか製造していただける業者さんが見つかったのです。
―何もないところから、凄い行動力ですね。
杉野 一番の取り柄が行動力ですので(笑) その後もコストや最小ロットなどの問題もあって苦労しましたが、1年かけて何とか作り上げることが出来ました。結果的に、むし歯や歯周病予防はもちろん、ホワイトニング効果にも優れたオールマイティーな歯磨剤が出来上がり、満足しています。また、本体だけでなくパッケージにもこだわりました。OLさんがオフィスで持っていても可愛いかったり、プレゼントにも出来るようなビジュアルにしたいなと。また、一人でも多くの方に、正しいブラッシングの仕方を知っていただき、定期的な検診やメインテナンスのために歯科医院に通っていただきたいという想いもあり、外箱のQRコードを読み込むと、歯科衛生士による歯磨き指導の動画を見られるようになっています。
―販売方法も普通ではないとお聞きしました。
杉野 あくまで「歯科衛生士による」という部分を大切にしたいので、当社がメーカーとなり、歯科衛生士に直接卸す仕組みにしました。通常、歯科医院で歯科衛生士が歯磨剤を販売してもインセンティブを貰えることはほとんどありません。それを、歯科衛生士に直接卸すことによって、モチベーションにも繋がりますし、ビジネスについても学ぶことが出来ます。歯磨剤1本でどれぐらい利益が出ているのか、ひいては院長先生がどんな想いでクリニック経営をしているのかを知るきっかけにもなります。中には、歯科医院として販売してもらうために、院長先生にマージン交渉をする人もいますし、さらには知り合いの美容室やエステサロンに販売している人もいますよ。
―その他の取り組みについても教えて下さい。
杉野 先ほどお話した1,000人の歯科衛生士とコミュニケーションを取る中で、キャリア形成に悩んでいる人が多いことがわかりました。ただ、キャリア形成と言っても、院内でのキャリアアップを目指す人もいれば、転職をしてキャリアアップを目指す人もいますし、フリーランスで成功したい人もいれば、会社を設立したいという人もいて、本当に様々です。以前は対大勢でのスクールという形で運営していましたが、それではなかなか難しいことが分かりまして、パーソナルトレーニングに切り替えました。受講者それぞれの目標に向けて、専属のコーチがコミットしていくサービスです。すでに受講生は200名を超えました。あとは、歯科医院向けのスタッフマネジメント事業や人材紹介事業も行っています。
―今後の展望をお聞かせ下さい。
杉野 現状の取り組みに加えて、歯科業界の課題である歯科衛生士の人材不足解決するために、歯科衛生士学校と連携して何か出来ないかなということは考えています。商品開発についても、歯磨剤だけでなく白衣や文房具など、色々なものをプロデュースしていきたいですね。どのような事業であれ、歯科衛生士のアイデアやイメージ、情熱を形にしていくサポートを出来ればと考えています。