地域糖尿病療養指導士兼糖尿病予防指導認定歯科衛生士として、全国で講演や研修を行っている竹内里奈さん。鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌内科学分野の博士課程にて臨床研究にも励んでいる。
PROFILE
竹内里奈(たけうち・りな)
竹内歯科クリニック、しゃもとデンタルクリニックにて臨床を行いながら、2018年、鹿児島県地域糖尿病療養指導士を取得。2020年、糖尿病予防指導認定歯科衛生士を取得。鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌内科学分野 博士課程にて臨床研究も行っている。

―糖尿病と歯科との関係を勉強するきっかけは何だったのでしょうか?
竹内 実家の歯科医院で、ふつうの歯科衛生士として働いていました。あるライブ会場で、1型糖尿病の友人と再会したことが大きな転機です。病気を正しく理解して、同じ悩みをもつ方の心の拠り所になりたいと思い、勉強を始めました。また、来院される方の高齢化や有病者の増加を肌で感じ、歯だけを見るのではなく全身を理解したうえでの歯科対応が不可欠だと考えるようになりました。
―糖尿病を含め全身疾患との関連は、これから高齢化社会がさらに進む上で、歯科において重要ですね。
竹内 はい。定期検診で、歯以外の体調や治療のことを話してくださる方が増えています。がんや糖尿病など、打ち明けにくい悩みを抱える方も少なくありません。だからこそ歯科が安心して話せるサードプレイスになれるように、医科の知識や共通言語を持って、多職種(医師・看護師・管理栄養士など)と連携できる体制づくりを心がけています。

―糖尿病と歯科との関係はどのように学ばれたのでしょうか?
竹内 2018年に鹿児島県地域糖尿病療養指導士という資格を取得しました。そこで、糖尿病と歯科との深い関係を感じ、勉強を重ねて、糖尿病予防指導認定歯科衛生士の資格も所得したという感じです。
―地域糖尿病療養指導士と糖尿病予防指導認定歯科衛生士はどう違うのでしょうか?
竹内 前者は医師と協働して治療支援を行う横断的資格で、看護師・薬剤師・管理栄養士・歯科衛生士など幅広い職種が対象です。一方、糖尿病予防指導認定歯科衛生士は歯科衛生士に特化した資格で、日本歯科衛生士会の生涯研修と更新要件に基づきます。未病から重症化予防まで歯科での実装力を高められるのが特徴です。
―糖尿病と歯周病には相互関係があると言われていますが、具体的にはどのようなことでしょうか?
竹内 糖尿病の患者さんは、糖の数値が高いと体内の炎症反応が活性化してしまいますので、歯周病が悪化しやすいという面があります。糖尿病と歯周病は慢性の炎症という面で繋がっておりまして、高血糖や免疫力の低下により、普段ではあまり表に出ないような歯茎の腫れなどの症状が出やすくなったり、治りにくくなったりしますね。また、高血糖になると唾液の分泌が減少しますので、歯周病菌が繁殖しやすくなるということもあります。

―逆に、歯周病に罹患していると糖尿病への影響もあるのでしょうか?
竹内 歯周病による炎症性物質が血流に乗って全身に広がり、インスリン抵抗性が高まることで、血糖をコントロールしにくくなってしまいます。これにより、糖尿病の治療がうまくいかなかったり悪化してしまうことで、歯周病も重症化してしまう負のスパイラルに陥ってしまうのです。逆に、歯周病治療によって血糖コントロールが改善するということもありますので、双方向からの治療が必要になります。
―一言で糖尿病と言っても、一型と二型があるようですが?
竹内 2型糖尿病は最も多く、生活習慣や遺伝素因が関与してインスリン分泌の低下や作用不足が起こります。1型糖尿病は自己免疫の異常で膵β細胞が破壊され、インスリンが作れなくなる病態です。発症年齢は幅広く、生活習慣の良し悪しだけでは説明できないことを正しく知っていただきたいと思います。
―クリニックにおける臨床では、どのようなことに気をつけていらっしゃるのでしょうか?
竹内 糖尿病患者さんのほとんどは、医科、歯科、眼科など多職種で検査結果や治療方針を共有するための「糖尿病連携手帳」を持っていらっしゃいますので、その内容を確認し、歯周病の状況や口腔内の乾燥度合いなど、歯科的な情報を記載します。また、歯科治療の前後で、脈拍や血圧、酸素濃度を測っています。特に、一型糖尿病の患者さんは空腹時に低血糖になるケースが多いので、ご自身が持っているブドウ糖の場所を事前に聞いておいて、万が一、意識が朦朧としたときのために備えておくことが大切です。二型糖尿病の患者さんでも、事前に低血糖になった場合の対処法を確認してから治療を進めていくことを心がけています。

―口腔内を診ることで変化に気づくこともできるのですか?
竹内 糖尿病の状態にもよりますが、ヘモグロビンの数値が高かったりすると歯茎が腫れやすかったり、出血しやすいという面があります。そういった兆候がある患者さんは血糖値を測るようにしていますので、その結果によっては内科の受診を勧める場合もありますね。また、糖尿病には神経性障害もあり、手や足に痺れがでることがあります。いつもはスタスタ歩いているのに、足元がおぼつかない患者さんに話を聞いてみると、実は血糖値が上がってきているなんてこともありました。ですから、口腔内だけを診るというよりは、その方の生活習慣も含めて全体を診ていかなければなりません。そのためには、糖尿病と歯科に関する知識を高めることはもちろん、いかに患者さんが心を許して、体調のことなども話していただけるような関係性を築くことも大切だと考えています。
―竹内さんはさらに大学で研究にも従事されているということですが?
竹内 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 医科学専攻 糖尿病・内分泌内科学分野で、糖尿病と歯科に関する研究に従事しています。1型糖尿病患者さんの補食(低血糖予防のための間食)がどのように歯科に影響するかを検討する臨床研究や医科歯科連携について医学部・歯学部・理工学部の3学部合同で共同研究も進めています。

―そこまでされている方はなかなかいないですよね。
竹内 自分で言うのは恐縮ですが、歯学系の博士号をお持ちの方は多くいらっしゃいますが、医学部の博士課程で研究を進めている歯科衛生士はまだ少数だと思います。だからこそ、責任を持ってしっかり取り組まなければという思いがあります。
―今後の展望をお聞かせ下さい。
竹内 現在は医学修士課程を修了し、博士課程に在籍しています。時間がかかっても博士号を取得し、学んだ知識を歯科・医科の現場に今後も広く還元していきたいです。また、2025年6月に「OraDia」を立ち上げ、歯科衛生士や医療従事者向けの教育支援、医科歯科連携の研修・セミナーにも力を入れています。医科歯科の研究と臨床、教育をつなぐ架け橋の役割を担っていきたいですね。