大手歯科医療法人にて、臨床はもちろん、組織マネジメント、スタッフ教育、分院の開業準備などを行っていた豊富な経験を活かし、北海道で研修事業を展開している浅野弥生さん。昨年、自らの資金でユニットを備えた研修施設をオープンし、活動の幅を広げている。
PROFILE
浅野弥生(あさの・やよい)
札幌市内の歯科医院勤務を経て、2022年にフリーランスとして独立。2025年、歯科衛生士向けの研修事業を行う株式会社ビビナスを創業。日本臨床歯周病学会認定歯科衛生士。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会アンガーマネジメントコンサルタント®。
株式会社ビビナス
https://vivinous.net/
インスタグラム
@vivinous2019

― 歯科業界へは歯科助手として入ったとのことですが、なぜ歯科衛生士になろうと思われたのですか?
浅野 実は、歯科衛生士と歯科助手の違いも分からぬまま、歯科助手としてこの業界に入ったんです。1年ほど働いているうちに、歯周病を治せるって凄いなと感じ、歯科衛生士の専門学校に入学しました。そこから、朝から夕方まで専門学校で学び、夜は歯科助手として歯科医院で働くという生活を2年過ごしまして、国家試験に合格できたんです。そこから、歯周治療を学ぶべく、院長が臨床歯周病学会認定医の歯科医院で研鑽を積み、同会の認定歯科衛生士の資格を取得しました。
―歯周治療を学ぶ上で難しかったことはございますか?
浅野 技術的なことは普段の臨床やスタディグループなどでの研修でスキルアップをはかることはできると思うのですが、歯周病は生活習慣病ですので、プロケアだけではなく患者さんの行動変容が必要です。の技術が優れていても、患者さんとのコミュニケーションが取れていなければ、なかなか成功しません。当時の院長からも、「歯科衛生士が治すのではなく、患者さんと一緒に治していく」という考え方を患者さんといかに共有できるかが大切だということを教わりました。ですので、心理学的な勉強にも重きを置いていましたね。

―その後、札幌の大手歯科医療法人で現場のマネジメントも経験されたと伺いました。
浅野 出産、育児で一旦臨床を離れたのですが、札幌の歯科医療法人にパートで復職しました。そのうちに少しずつ任せていただける仕事が増えていき、子どもが大きくなってフルタイムで働くことが可能になった段階で、主任として現場をまとめる立場になったのです。最初の頃はまだ規模も大きくなかったのですが、分院展開がどんどん進み、スタッフも100人クラスになりましたので、マネジメントに割く時間が多くなりました。スタッフ教育はもちろん、採用にかかわる学生への対応など、自身の臨床以外の面で大変勉強になったと思います。また、分院の開業に携わらせていただいたことも大きな経験でした。クリニックの図面を見て動線を考えたり、備品の発注などの開業前の仕事から、オープンニングスタッフとしてスタッフ教育を兼ねて数ヶ月勤務するということを7医院もさせていただき、これは私にとってすごい強みだなと感じています。
―アンガーマネジメントコンサルタントの資格も取得されたのですね。
浅野 はい。ただ、歯科の臨床のために勉強したのではないのです。離婚して自分一人で2人の子どもを育てていく中で、手いっぱいなこともあり、ちょっとしたことでイライラして子どもに八つ当たりをしてしまっていたんです。そんな自分がすごく嫌で、学び始めたのがアンガーマネジメントでした。
―アンガーマネジメントとはどういうものなのでしょうか?
浅野 アンガーマネジメント自体、怒り自体を我慢できるようにすることと捉えられがちなのですが、実は少し違うのです。怒る必要のあるときは上手に起こる。怒る必要のないときは怒らないという線引きができるようになることを最終的なゴールにしています。では、その線引きはどこでするのかというと、後悔するかしないかで決めるのです。例えば、感情的になってブチギレるような怒ってしまった後、あんなに怒らなければ良かったなとかあんな言い方しなければよかったなという後悔をする場合があります。一方、怒りを感じているのに、嫌われるのではないかなどと自分の感情に蓋をしてしまって、あのときちゃんと言っておけばよかったなという後悔もあります。そういった後悔がないように、感情的になりやすい人であれば、どのようにして相手に伝えればちゃんと伝わるのか、逆に我慢してしまう人はどうすれば上手に怒れるのかを理論的に学び、トレーニングしていくのがアンガーマネジメントです。

―ご自身のために学び始めたアンガーマネジメントを、歯科医院の現場でも活かせるようにもなったのですね。
浅野 私自身、スタッフ教育をしている中でイライラする場面もありましたし、普段の臨床の中で、先生とスタッフ、先輩後輩など様々な関係性でも役に立つだろうと思い、歯科医院でも取り入れ始めました。さらにこの概念を広めるために、デンタルタイヤモンド社に直接メールを送ったことをきっかけに連載企画が始まり、その内容をまとめた書籍を出版することになったのです。その反響で、歯科医院の院長先生や学会、スタディグループから講演のご依頼をいただくようになり、人前でお話する機会が増えていったという感じですね。
―現在は会社を立ち上げ、研修事業を行われているのですね。
浅野 昨年の9月に株式会社ビビナスを立ち上げまして、ご依頼いただいた歯科医院の課題に応じて、スタッフの臨床技術やコミュニケーションスキルの向上、院内のシステム構築などの訪問研修を行っております。また、歯科助手の経験から、材料管理やコスト削減の取り組みもサポートさせていただいております。

―自前で研修用のラーニングスペースを作られたともお聞きしました。
浅野 歯科医院に訪問しての研修となりますと、研修のためにユニットを空けなければいけないケースが多く、動けるスタッフさんがいても患者さんのアポイントをカットすることになってしまいます。別に研修施設があれば、先生方もそういったことで困ることもありませんし、私自身の移動時間も少なくなりますので、思い切って自分で作ってしまおうと、昨年11月にVIVINOUS BASEというラーニングスペースをオープンしました。相互実習ができるようにユニット2台と基本的な器具を備えていますし、消毒滅菌もできるようシンクやオートクレーブも設置しています。また、8名まで座学ができるセミナーブースも用意しました。
―個人でそこまでの施設を作るのは大変だったのではないですか?
浅野 応援してくれる先生方もいらっしゃいましたし、出資しますよと言っていただける企業さんもいらっしゃったのですが、自分の思い通りにやりたいという想いがありましたので、自己資金で足りない分は借り入れをして用立てました。なんだかんだで1200万円ぐらいはかかっていると思います。だから大変です! 働かないと(笑)
―それはすごい覚悟ですね。先ほどのお話ですと、新人スタッフの研究で使われることが多いのですか?
浅野 現状はそうですね。あとは、講師を招いてのセミナーも定期的に開催しています。今後は、復職支援にも活用したいと考えています。復職をしたいけれども、いきなり現場復帰となると不安があるという声も聞きますので、復職前に一般的な研修を受けられるようにしていきたいですね。また職歴に関わらず、本州に比べて北海道はまだまだ学ぶ機会が少ないと感じていますので、様々な取り組みを通じて北海道の歯科衛生士を盛り上げていきたいなと思います。

