Ciメディカル歯科衛生士の藤田満里奈です。日ごろ診療をしていてヒヤリ!とした経験みなさんも一度はありますよね。いわゆる「ヒヤリハット」です。ヒヤリハットとは重大な医療事故には至らないものの、直結してもおかしくない手前の事例のことを言います。今回の記事では通常のヒヤリハットではなく直接大きな事故には繋がりませんが、ミスをそのままにしておくと医院の信頼感を損なってしまう事例と対策を紹介していきます。みなさんの日常の診療にも役立っていただけると嬉しいです。
私が10年間勤務していた歯科医院では月1の全員参加会議でヒヤリハットの共有、防止策を考える時間がありました。院長はじめスタッフ全員が参加する会議ですから小さなミスの共有が可能です。院長も率先してヒヤリハットを出してくださっていたため、新人を始め全員が報告をしやすい空気作りがなされていました。「ヒヤリハットはたくさん出た方が良いんだよ」が院長の口癖で、毎月20件ほどの事例報告がありました。針刺し事故のような事例だけではなく日々の小さなミスや患者さんからのクレームなども報告していました。
具体的な事例として、
① 患者さんから「○○さん(歯科衛生士)の施術が痛い」とお会計時にクレームがあった
② 治療の際必要な材料がなくなっていていることに気づき急遽治療内容を変更した
こんな日常診療でありがちな事例を報告しそれぞれの対策を全員で話し合っていきます。それでは当時会議で決まった改善策を紹介していきます。
まず①の「施術が痛い」とのクレームです。この様なクレームは個人の問題として担当変更をして済ませることもあるかと思いますが、院内全体の問題と捉えました。歯科衛生士5人の相互実習も兼ねて院長や受付助手、衛生士同士も歯周検査からPMTCまで一通りのメンテナンスの流れを施術することにしました。評価シートを作り、声掛けなども評価ポイントに入れます。
実際に自分が施術を受けると先輩衛生士はもちろん、後輩衛生士からも学ぶこと・気が付かされることがたくさんありとても良い機会でした。4か月に一度ペアを替え定期的に行うことで、スタッフ間のコミュニケーションにもなり院内の良い習慣作りが出来ました。
一般的にクレーマーは「迷惑」とか「怖い」とかマイナスなイメージがありますが、クレームを言う人の割合は、不満を持った人のうちわずか4%と言われています。96%の人は何も言わず離れていくそうです。クレームは改善の機会と受け止めて、院内全体で対応し、逆に医院のファンになってもらうよう努めたいですね。不満を持った方がその後、濃いファンになってくださることも多くあります。この方の場合も担当衛生士の変更を行いましたが、その後4か月に1度の定期健診を永く通ってくださるファンになりました。
続いて②在庫切れの対策です。材料の発注をする在庫管理の担当を置き、ディーラーさんとのやり取りや通販での発注は担当が行うようにしました。またカンバン方式という在庫管理方法を採用しミスが起こらない仕組みを導入しました。ここでは簡単に説明していきますが、詳しくは「カンバン方式 在庫管理」と調べてもらうと分かりやすいと思います。
まず準備として、
・各材料につける札を作成します。札はホワイトボードにも貼るので裏にマグネットシールを貼ると便利です。
・ホワイトボードに発注前と発注済の仕切り枠を作る
運用方法
1.全ての材料の一番奥の商品に札を取り付け残量が少なくなってきたら発注ホワイトボードの「未発注」の枠に貼り付けます。
2.在庫管理の担当は発注が完了したら「発注済」へ移動し、商品が届いたら札を商品に取り付け片づけます。
ちなみに商品が届き札をつけたら診療室の棚などに戻す作業を新人が手伝うと棚の位置や各材料の位置を覚えられるのでおススメです。治療中院長から「これ持ってきて」と指示があっても慌てず対応できるようになります。
今回はほんの一例をご紹介しました。
もちろん針刺し事故のような医療事故を防ぐ議題も毎月話し合います。日常の診療に追われ、院長やスタッフ間で院内の問題とじっくりと向き合う機会はどうしても少なくなりますよね。会議の場を設けることで院内の問題を一人一人が自分事として捉え、改善策を全員で話し合うことで必然的に歯科医院全体の雰囲気作りにもなると私は感じていました。さらに嬉しいことに、この会議は私が入社して2年ほど経った頃から始まったのですが、患者数もどんどん増え新患を断らなければいけないほど組織は成長していきました。
まとめ
私の中でヒヤリハットは単純に医療事故を防ぐためのものではなく、どんな小さな事例も院内全体の問題と捉え全員参加で話し合うことで、ひいては患者さんの満足度を高め歯科医院の魅力をさらに引き出す有用なツールのような認識でした。みなさんの歯科医院でも話し合う機会が少ないと感じていらっしゃる方がおられましたら是非今回の記事を参考にしていただけると幸いです。