フリーランス歯科衛生士の先駆が考える自己実現法
10年以上、フリーランス歯科衛生士として第一線で活躍する丸橋理沙さん。国内だけでなく海外にも活躍の場を広げる彼女は、歯科衛生士として、フリーランスとして、何を大切にしているのか。その想いを語っていただいた。
PROFILE
丸橋理沙(まるはし・りさ)
2006年、伊藤歯科医院勤務。退職後、アメリカやイタリアなど海外で研鑽を積む。現在はフリーランスとして臨床現場で活躍するほか、スタッフ院内研修、インプラントオペ介助、セミナー、講演などで全国を飛び回っている。
ホームぺージ https://www.rdh-risa.com/
Instagram https://www.instagram.com/lisa_v_a/?hl=ja
―フリーランス歯科衛生士の先駆けとして有名な丸橋さんですが、独立される前はどのような研鑽を積まれてきたのですか?
丸橋 実習先だった大阪の伊藤歯科医院にそのまま就職させていただいたのですが、スタッフの入れ替えのタイミングと重なったこともあり、新卒でいきなりチーフという立場になってしまいました。まずは動けるようにならなければいけないと、実技を徹底的に学んだんです。もちろん新人なので失敗もしましたが、出来るようになるためにはトライアンドエラーを繰り返していくしかありません。伊藤先生には、「患者さんの前では新人面するな。1年目だろうが10年目であろうが患者さんからすれば関係ない」と言われたこともあり、だからこそ早く出来るようにならなければいけないと頑張りました。大変ではありましたが、患者さんが喜んでくれるのが嬉しくて続けられたのだと思います。それから2年経って、伊藤歯科医院での全ての実技を習得した頃に、伊藤先生から「次は知識をつけなさい」と言われ、様々なセミナーに行き始めました。ペリオでもインプラントでもそうですが、なぜその処置をするのかの意味を知らずにやるのと知ってやるのとでは全く違います。さらにその処置の先にあるものまで学ぶことで、処置のクオリティはもちろん、指示されるより先に動くことが出来るようになりました。
―フリーランスになろうと思ったきっかけは?
丸橋 転職しようとした場合、現状の歯科界では、これまで積み上げたものを考慮されないことが多いので、また一からキャリア形成をしなければならないかもしれない。そう考えたときに、早くから勉強してフリーランスになった方が良いのではないかと思い、決意したわけです。とはいえ、最初は思っていた以上に苦労しました。フリーランスになりましたと言っても、すぐに仕事が来るわけではありません。チラシを作って配ったり、スタディクラブで宣伝させていただいたり、3年ぐらいでようやくフリーランスとして食べていけるようになりました。
―海外に渡って勉強もされたそうですが。
丸橋 伊藤歯科医院に在職時もスウェーデンなどに行かせていただいたのですが、退職後もアメリカやイタリアで勉強しました。今の私があるのは、このときに学んだ知識や技術が大きいと思っています。
―全国の歯科医院に出張してのスタッフ教育が好評だとお聞きしています。
丸橋 おかげ様で、本当に各地の歯科医院さんからご依頼をいただきまして、今週のスケジュールで言いますと、月曜が神奈川、火曜が和歌山、水曜と木曜が東京、金曜が高知というような感じで、本当に全国を飛び回っているという感じです。知らない歯科医院さんからのご依頼で伺うことも多いので、電車が1時間に1本しか走っていない駅でタクシーもいないし、本当に迎えに来てくれるんだろうかということもよくあります(笑)
―スタッフ教育はどのような内容で行われているのでしょうか。
丸橋 歯科医院さんごとに要望をお伺いし、それに合わせたカリキュラムを作成して、完全オーダーメイドで行っています。1、2回お伺いしたところで出来るようになるわけがありませんので、年間を通してのカリキュラムにすることが多いですね。
―歯科医院ごとに、人はもちろん雰囲気や環境も違いますが、そのような中で教えていくには難しい面もあるかと思いますが。
丸橋 やり始めた当初は本当に苦労しました。どこの誰かも知らない人が突然教えてくるわけですし、研修自体を好意的に思っていないスタッフさんもいるかもしれません。そんな中で、自分を受け入れてもらえるのか、信頼関係を築くことが出来るのか。最初は私自身も自我を通すような面があってうまくいかないケースもありました。しかし、スタッフ一人ひとりに合わせて、いかに気持ちよく仕事が出来るようになるかを考えてやるようにシフトしたことで上手くいくようになってきました。そこにある道具で、そこの雰囲気で出来るようになるにはどうすれば良いか。セミナーや講演では出来ない、実際に現場で出来ることを重視し院内研修を行っています。
―臨床もされているのですか?
丸橋 お話したように院内研修やセミナー、講演など教える仕事が多くなってきたのですが、その合間で出来るだけ臨床の仕事も入れるようにしています。契約している京都のクリニックで、担当患者さんのメンテナンスを行ったり、また別の契約歯科医院になりますが、インプラントのオペ介助も定期的に行っています。なにより歯科衛生士の現場が好きですし、臨床もしていない人の話なんて説得力もありませんから。
―それだけお忙しいと、体調を管理するのが難しいのではないかと思うのですが。
丸橋 そうですね。昔は1ヵ月に1日しか休みがないという感じでしたが、数年前から週に1、2日は休むようにしています。とは言っても仕事が入ってしまうことも多いので、なるべくという感じです(笑) あとは、どうしても外食が多くなってしまいますので、家で食べるものは買ってきたものではなく、グルテンフリーを意識して一から全部作るようにしています。出来るだけ添加物が入っていない食材を選ぶとか、家での食事はこだわっているかもしれませんね。マクロビオティックを習ったり、コロナ禍でちょっと暇になったときは、勉強してミネラルアドバイザーという資格も取りました。
―やはり健康管理には気を遣ってらっしゃるのですね。
丸橋 自分の代わりに行ってくれる人がいるわけではないですし、自分に何かあったらその方たちの時間や労力が無駄になってしまいますので。ですから、食事もそうですし、ジムで筋トレをしたりウォーキングをしたり、マッサージに行ったり、自分を整える時間を大切にしていますね。
―最後に、読者である歯科衛生士の方々にメッセージをお願いします。
丸橋 これは私のセミナーでも受講者の皆さんによくしていただくことなのですが、仕事とプライベートを分けて、1年後と5年後に自分がどうありたいのかを書いてみて下さい。私はいつも5年スパンで目標を立てているのですが、フリーランスになる際にも、30歳で国際歯科大会に出て、35歳までには海外で講演をするという目標を立てました。実際、世界歯科大会には最年少となる30歳で登壇し、34歳のときロサンゼルスでAO(Academy of Occeointegration)の講演をさせていただき、目標を実現させることが出来ました。想像するのに、叶う叶わないは関係ありません。ただ、それが想像出来ない限りは、1年後も5年後も変わらないと思います。1年目の新人でも10年以上のキャリアがあるベテランでも関係ありません。一度立ち止まって自分を見つめ直すことが大切だと思います。