学生から復職まで幅広い人材育成で注目
「一人でも多くの歯科衛生士が、楽しく仕事を出来るお手伝いがしたい」と、フリーランスとしての活動をスタートした本田貴子さん。歯科衛生士・デンタルスタッフ向けの勉強会「FOCUS!」をはじめ、その活動は多岐にわたり、歯科衛生士全体のレベルアップに繋がっている。
PROFILE
本田貴子(ほんだ・たかこ)
『東歯科医院』、『牛島歯科医院』にて研鑽を積み、1998年から15年間、『インプラントセンター・九州』に務後。2014年、フリーランスに転向。2020年には『MERCIMONDE LLC』を設立し、院内研修や復職支援など精力的に活動を行っている。熊本県歯科衛生士会診療所部門理事。熊本歯科衛生士専門学院非常勤講師。
―フリーランスとして働き始めたきっかけを教えて下さい。
本田 フリーランスになる前は、歯周治療専門の歯科医院に2年間、新規開業で老健施設の往診もしている歯科医院に2年間、インプラント治療専門の歯科医院に15年間勤務させていただきました。ありがたいことに、素敵な先生方やスタッフ、患者さんに恵まれ、歯科衛生士として必要な知識や技術、医療人としての在り方や考え方を学ぶことが出来たと思います。また、患者さんとのやり取りやチーフとしてチームを作り上げていく中で、歯科衛生士として働く楽しさも感じさせていただきました。そのような自分の経験から、一人でも多くの歯科衛生士が患者さんと向き合い、楽しく仕事が出来る、そういった環境を他の歯科医院の中で作れるようなお手伝いが出来ないかと考えるようになり、2014年からフリーランスとして本格的に活動を始めました。
―様々な活動をされている本田さんですが、デンタルスタッフの勉強会「FOCUS!」について教えていただけますでしょうか?
本田 2016年に熊本地震があり、口腔支援活動を行ったのですが、その際に改めて、「食べること」、「話すこと」、「歯を磨くこと」の大切さを感じました。同時に、離床の場で私たちデンタルスタッフは歯科医師とともに良い治療を提供すること、患者さんに応じた情報提供を徹底することで、口腔や全身に対するIQを上げておかなければならないとも感じました。当時、熊本県には歯科衛生士が気軽に参加出来る勉強会がなかったこともあり、熊本歯科衛生士専門学院の先生からアドバイスをいただき、年間スケジュールを組み立て、各専門分野でご活躍されている先生方に講師をお願いし、この「FOCUS!」を立ち上げたのです。
―講師の先生も有名な方ばかりですね。
本田 先生方もお忙しいと思うのですが、歯科衛生士全体のレベルアップのためにということで、快く引き受けて下さいました。ですから、歯科衛生士の皆さんには歯科医師の先生方が私たち歯科衛生士のことを想ってくださっているということを知ってほしいですし、頑張ろうとしている歯科衛生士がこんなにいるということも先生方に見てほしいという想いがあります。歯科医師と歯科衛生士が対等に患者さんのことを話し合い、治療を行うことが出来れば、患者さん満足度の高い充実した仕事が出来ると思います。スタッフが仕事に真摯に向き合い、楽しむことが出来る歯科医院が増えれば、幸せな患者さんが増えますし、さらに良い歯科界になっていくはずです。
―受講者に学生さんが多いのも珍しいですね。
本田 学生の受講費を無料にしていることもあり、多くの学生さんが受講されています。これからの未来を担っていく学生さんの参加も意味があることだと思いますし、そのことによって現役の歯科衛生士が刺激を受けて良い影響を与え合えると良いなと思います。学生や後輩が先輩に刺激を与える関係というのも「FOCUS!」の特徴ですね。
―新人育成&復職支援「CHANCE!」&「PLUS!」についてはいかがでしょうか?
本田 「CHANCE!」&「PLUS!」については、主に基本的な歯周治療を指導させていただいています。プロービング検査や超音波スケーラーの実習はマネキンや抜去歯牙、模型などを用いて練習しますが、そのために重要になるのがレントゲンの見方です。現状の確認を行い患者さんにどのように説明をすれば動機付けが出来るか、プロービングやSRPの手技をシンプルに確実に行えるかを理解してもらいます。また、その時々で現状と治療内容をしっかりと説明することが出来るとクレームの防止にも繋がります。特に新人のときは、患者さんからのクレームは怖いものです。クレームによって自信をなくしてしまい、その後の業務にも影響を及ぼしてしまうケースが多々ありますので、そのようなことにならないように技術、コミュニケーションの両面でサポートしています。
―新人や復職の方を対象にされているのはなぜでしょう?
本田 受講の要望が多いのが新人さんや復職の方のため対象としていますが、実際は現役の方も自分の学びと後輩指導のために参加されます。新人さんに関しては、「勤務先の先輩は尊敬しているけど、忙しそうでなかなか教えてもらう機会がないし迷惑もかけたくない。でも、分からないままが嫌だから、学べるところを自分たちで探してきました」と言われることが多いですね。また、復職の方はこんなことを言ってらっしゃいました。「新人教育はあっても復職教育がある歯科医院はほとんどありません。復職は出来て当たり前と思われています。でも、復職こそ不安があるのです。患者さんに触れるときに、以前と同じ技術が提供できるのだろうか、知識の面でも置いてきぼりになっているのではないかと不安になります」。加えて、復職の場合、どうしても自分より年下の若い衛生士さんに分からないことを聞けないという面もあります。逆に、若い衛生士さんも復職の方は分かっていると思っていたり、遠慮して教えることが出来ないという面もあるでしょう。ですから、若い衛生士と復職の方が一緒に実習を行うことによって、その垣根を超える練習をしておくわけです。そうすることによって、勤務先でも周りに聞くことに抵抗がなくなっていくと思います。
―折角、復職しても、周りに馴染めなかったり、技術が追いつかなかったりして、辞めてしまう方も多くいらっしゃいますものね。
本田 そうですね。それでまた辞めてしまうのも勿体ない話です。私もフリーランスとして色々な歯科医院に行かせていただきますが、新人さんにしても復職の方にしても、悩みを抱えている衛生士が非常に多くいらっしゃいます。そういった悩みを解決して、前向きに仕事に向き合えるようサポートしていければと思っています。
―最後に、今後の展望を教えて下さい。
本田 私自身、歯科衛生士の仕事は本当に魅力的だと思っています。新人の方も復職の方も最初はきついこともあると思いますが、それを乗り越えれば楽しみに変わってきますし、その域まで達することが出来れば、長く続けることが出来るはずです。そして、そういった方が増えていけば、歯科衛生士不足と言われる現状も変わっていくでしょう。これからも「歯科衛生士、デンタルスタッフが仕事に魅力を感じ、楽しむ世界を創造する」を理念として、これらの活動と院内研修の両面から活動を続けていきたいと思います。