自由診療専門の『新百合ヶ丘南歯科』にて、マイクロスコープを使用して歯科衛生士業務を行っている杉山幸菜さん。メインテナンスの精度や患者とのコミュニケーションにおいて、歯科衛生士がマイクロスコープを使うことのメリットや意義について、お伺いしました。
PROFILE
新百合ヶ丘南歯科
杉山幸菜(すぎやま・ゆきな)
2011年、鶴見大学短期大学部歯科衛生科卒業。2016年、新百合ヶ丘南歯科勤務。デンタルアーツアカデミーにてマイクロスコープ診療セミナーの講師を務める。充実した設備で、現場に即した技術を楽しみながら学べると好評。日本顕微鏡歯科学会認定歯科衛生士。
―マイクロスコープを使い始めたきっかけを教えて下さい。
杉山 新卒で勤めた歯科医院が、一般開業医院にもかかわらずユニットが40台くらいある大きなクリニックで、当時でもマイクロスコープが何台もありました。ただ、歯科衛生士がマイクロスコープを使うという土壌はまだなく、私も触るようなことはありませんでした。しかし、勉強のために入会したSJCDで、歯科衛生士の前田千絵さんに出会ったことで大きく変わったのです。前田さんは、当時からマイクロスコープを使ったメインテナンスを実践されていて、臨床現場を見学させていただいたところ、「こんなことが出来るのか」と驚きました。そこから興味が沸きまして、勤務先のマイクロスコープをちょこちょこと使わせてもらうようになったわけです。
―マイクロスコープを使っている歯科衛生士は周りにいらっしゃったんですか?
杉山 マイクロスコープを使っている歯科衛生士は私だけで、しかも、まだ1、2年目でしたので、異端児のような感じでした(笑) 今となっては畏れ多いことをしていたなと思いますが、当時の院長先生が賛同してくれたこともありまして、気にせずやっていたと思います。そのクリニックが、ドクターと歯科衛生士がタッグを組んで診療するスタイルで、歯科衛生士の先輩から教わるというよりは指導医から教わるという感じだったのも大きかったのではないでしょうか。そのタッグを組んでいた指導医が、現在勤めている「新百合ヶ丘南歯科」の高山先生で、当時からマイクロスコープの使用を応援してくれました。そういった意味でも当時の院長先生や高山先生には非常に感謝しております。
―マイクロスコープを使ったメインテナンスを行ってみていかがでした?
杉山 歯石を取るということだけでも、これまでの手の感覚という不確かなものから、拡大視野で歯石を確認しながら取ることが出来ますので、より精度の高い施術が出来ます。それから、マイクロスコープを使ったメインテナンスを始めたばかりの頃ですが、縁下歯石を除去する動画を患者さんにお見せしたところ、「今まで何十年も歯石を取ってもらってきたけど、実際に除去する動画を見たことは初めて。凄いですね!」と感動してもらえて、一段と熱が入るようになりました。
―マイクロスコープでのメインテナンスはどうやって習練されたのですか?
杉山 前田さんが開催されているセミナーで基礎を教えていただいたり、前田さんのところに何度も見学に行かせていただいて、あとは臨床現場で経験を積みました。模型でも練習しましたが、やはり歯肉の感触や頬の柔らかさ、唾液の有無など、違う面が多いので、臨床を通じてのトレーニングが大きいと思います。最初は部分的に使うだけでしたが、徐々にその範囲を広げて今ではSRPにしても歯周組織検査にしても、何をするにもマイクロスコープを使って行っていますね。
―難しい面はなかったですか?
杉山 ルーペは自分の身体と一緒になって動いてくれますけど、マイクロスコープとなるとそうはいきません。自分が見たいところに顕微鏡を合わせるにはどうすればよいのか、これには慣れが必要だと思います。あと、ルーペよりもかなり高い倍率ですので、その感覚にも慣れなければいけません。例えば、20倍に拡大していたとしたら、ちょっと動かすだけでその20倍動いているように見えます。私も最初の頃は、自分の持っている器具が視野から消えてしまうなんてことが頻繁にありました。ただ、慣れれば誰でも出来ます。不器用な私が言うんだから本当です(笑)
―マイクロスコープを使うとそれだけ違うわけですね。
杉山 そうですね。見える世界が全然違いますので、ルーペを使ったSRPでめちゃくちゃ歯石が取れたと思っても、マイクロスコープで最終確認しようと見てみると、全然取れていなくて結局二度手間になってしまうことはよくあります。従来の手の感覚だけでは、出来た気がするというだけで不安な部分がありますが、マイクロスコープを使うと、出来ているのか出来てないのかが一目で分かりますので、安心出来ます。逆に、出来ていないことが分かることも意義があるでしょう。しかも、動画を撮影して患者さんと共有出来るというのもポイントで、歯科衛生士としてのやりがいにも繋がります。
―歯磨き指導にも力を入れられているとお聞きしました。
杉山 新人時代から、歯科衛生士の一番大事な仕事はOHIだと高山先生に言われ続けていまして、ブラッシング指導に注力してきました。患者さんの行動変容を促すために、どういう風にアプローチしたらいいかを常に考えてきたのですが、どうしても患者さんによってうまくいかない場合もあります。そんなときに、チェコ発の口腔ケア予防プログラム「iTOP」の存在を知り、レクチャラーの資格を取得しました(レクチャラーを取得した日本人歯科衛生士は3人のみ)。「iTOP」のコンセプトは、「プラークを除去出来る」、「歯や歯肉にダメージを与えない」、「一生続けられる」ブラッシングを、患者さんに身に付けてもらうことです。患者さんそれぞれに、性格や考え方はもちろん、器用さも違いますし、ブラッシングにどれだけ時間をかけられるかも違います。理想とされる画一的なブラッシングを指導するだけでなく、一緒に磨きながらコーチングしていくことで、その患者さんにとって最適なブラッシングを見つけるようにしています。
―最後に、杉山さんの今後の展望を教えて下さい。
杉山 マイクロスコープを使ったメインテナンス、ブラッシング指導を含めたセルフケアの確立・継続で、患者さんのお口の健康を生涯にわたり維持出来るように、これからも精進していきたいと思います。加えて、ありがたいことに講演やセミナーなどの機会も増えてきましたので、自分の出来る範囲で求められることに応えていきたいと思っています。