自身のマウスピース矯正治療の経験から、正しい治療方法を多くの人に広めたいと、マウスピース矯正研修講師として独立。全国の歯科医院向けの出張研修を行い、医院全体の底上げを行っている穴沢さんに、国内でも珍しいその活動の内容や想いについてお伺いました。
PROFILE
穴沢有沙(あなざわ・ありさ)
2,000件以上の光学印象撮影の指導経験があり、マウスピース矯正のコデンタル向け研修を得意とする。「歯科業界を憧れの職業にする」を理念に、2018年株式会社Blancheを設立。さらに、日本歯科社会教養推進機構(JDL)を発足し、人財育成にも力を入れている。
株式会社Blanche
https://dh-blanche.com/
横浜関内矯正歯科ブランシュ
https://yokohama-kannai-invisalign-kyouseisika.jp/
日本歯科社会教養推進機構(JDL)
https://japan-dental-liberalarts.com/
―もともとマウスピース矯正にご興味があったのでしょうか?
穴沢 いえ、歯科衛生士として働き始めた頃は全く接点がありませんでした。28歳のときに転職した大手歯科医療法人では、マウスピース矯正に力を入れていて、日本でもトップクラスの実績を上げていました。私が入社してまもなく、矯正を担当していた歯科衛生士が退職されるということで、その後に任命されました。矯正に関して特に知識があったわけではなかったのですが、在籍4年半の間に色々学ぶ機会をいただきました。
―ご自身もマウスピース矯正をされたとのことですが?
穴沢 私自身、子どもの頃から八重歯がコンプレックスで、矯正したいという想いがありました。たまたま社員治療のシステムがあったので、勉強を兼ねてやってみようと、マウスピース矯正を経験しました。気にしていた歯並びがきれいになり自信が生まれたことと、自分で治療を経験したことによって患者さんに矯正治療の提案がしやすくなりました。本当に貴重な経験をさせていただいたと感謝しています。
―そこからマウスピース矯正研修講師になろうと思ったのはなぜですか?
穴沢 医療法人を退職することとなり、今後の自分の進む道を考えていたのですが、その時相談したメンターから「あなたには武器があるじゃないか」と助言をいただいたのがきっかけです。当時は自分が講師になるなんてことは考えていなかったのですが、一番信頼していた、私を育ててくれた歯科医師からの言葉で真剣に考えました。マウスピース矯正を導入したい、導入したけれどうまくいかないとお困りの先生方がいらっしゃるということも知り、そのような方々の力になるために研修を組み立てました。ありがたいことに、独立初期からメーカー担当者からの紹介、歯科医師のネットワーク、SNSなど口コミで広まり、現在もご紹介を多くいただいております。
―マウスピース矯正のメリットを教えて下さい。
穴沢 一般的にメリットとして言われている、目立ちにくい、取り外しができるので快適、ということよりも、取り外していつも通り食事や歯磨きができ、フロスも出来るということが最大のメリットだと思っています。従来のブラケット矯正では、ワイヤーが邪魔になって、しっかりフロスをしようと思うと1回1回糸通しのようにしなければいけません。全顎的にセルフケアをしようとすると10分ほどかかってしまいます。さすがに、それを1日3回行って下さいとは患者さんに言いにくいですよね。歯並びが整ってブラケット装置を外したときに、むし歯に罹患していることが少なからずあるのですが、そのときはやはり悲しいですね。
―マウスピース矯正を行う上で難しい点はございますか?
穴沢 ブラケット矯正と異なり、マウスピース矯正は患者依存型装置です。いくら良いマウスピースを作っても、患者さんが使って下さらないと治療はうまくいきません。その点で、いかに患者さんと信頼関係を築いて伴走していくか。ここが一番重要です。もちろん主治医となる歯科医師が行う診断や治療計画立案は大切ですが、1年、2年、3年という矯正治療期間中、わたしたち歯科衛生士が携われる部分は8割以上もあり、やりがいをもって働ける素晴らしい仕事だと感じています。
―実際の研修ではどのようなことを教えていらっしゃるのですか?
穴沢 いくつかコースはあるのですが、8割の歯科医院が全8回のアドバンスコースを選ばれています。治療の全体像からスタッフの役割などの総論、患者さんに対するアライナーの取扱説明、カウンセリング、クロージング、アタッチメントの付与実習、トラブルシューティング、フォローアップなど、講義はもちろんロールプレイングや実習を通して、すぐに臨床で活かせる内容にしています。中でも、患者さんへの取扱説明はすごく大切です。アライナーを渡したら使ってくれるなんてことはありえません。決められた装着時間を守るためにはどうしたらいいのか、外食の際、外したアライナーをどうしたらよいのか、また歯磨きができないときは装着をするべきかどうか、などの疑問点をいかに払拭してあげられるかが重要です。患者さんにとって一番モチベーションが高い最初のタイミングで、正しい知識と矯正生活を楽しく過ごせる方法を会話しながらお伝えする。意外とこの説明を疎かにしている医院が多いのですが、とても大切なのです。
―研修には、歯科医師も歯科衛生士も参加されているのですよね。
穴沢 はい、表向きはコデンタルに向けて行っておりますが、医院全体の認識を合わせるためにも、意思決定者である院長や治療に関わる歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、受付担当者など、全ての職種の皆さんにご参加いただくことをお勧めしています。
―マウスピース矯正歯科専門クリニックも開業されたそうですね。
穴沢 マウスピース矯正研修講師として活動する中で、人材育成のための臨床現場があったらいいなという考えがありました。そのため、10年一緒にマウスピース矯正治療を行ってきた歯科医師と、2020年8月に横浜関内矯正歯科ブランシュを開業いたしました。「自分が受けたい治療」を起点に、材料や診療時間に妥協せず構成しています。けして高額な材料を使う、というわけではなく、常に新しい情報をキャッチアップし、治療クオリティを高められるものを院長と一緒に検討、導入しています。おかげさまで、マウスピース矯正専門医院ならではの豊富な経験に基づいた治療計画や、きめ細やかなサポートでご好評をいただいております。
―マウスピース矯正研修講師以外の活動も積極的に行われているそうですね。
穴沢 ビジネスパーソンとしてスキルアップしたいと思い、グロービス経営大学院で経営学を学んでいます。2019年に初めてクリティカル・シンキングという問題解決力やコミュニケーション能力、意思決定力などの論理的思考力を鍛える講座を受講したのですが、本当に色々な発見があって、社会人として知らないことの多さに驚きました。また、歯科だけでない色々な業種の方と交流出来るため、視野が広がってきたと思います。2022年4月に本科入学をし学びを深めており、あと半年で経営学修士(MBA)を取得出来る見込みです。今後も一社会人として、経営者として学びを続けていきたいと考えています。
―どのような業種、職種の人であれ、一般教養を身に付けることは大切ですものね。
穴沢 それから、グロービス経営大学院への進学にきっかけになりまして、歯科の「人財育成」のための日本歯科社会教養推進機構(JDL)を発足しました。歯科業界人はわりと治療やメンテナンスのスキルは勉強されていますが、社会人としての一般的教養を学ぶ機会がないままきている方も少なくありません。社会人としての基礎を楽しく学ぶための研修を行っています。私や共同代表の歯科衛生士・加瀬久美子さんはもちろん、ファイナンシャルプランナー、ホスピタリティ研修講師などの外部講師も招いて、講義を行っています。インプットしてもらうではなく、様々な歯科医院の色々な職種の方とグループワークをすることで、多くの気付きを得られ、日々の業務の改善、悩みの解消に繋げられると評判です。主軸であるマウスピース矯正研修はもちろんですが、歯科業界で働く全ての人が輝ける社会を目指して、人財育成事業にも注力してきたいと考えています。