日本歯周病学会認定歯科衛生士の資格を取得し、これまで千人以上にSRP指導を行ってきた前池綾乃さん。歯科医院訪問研修事業を行う会社を設立し、歯周ポケット6mm以上の患者に対応できる歯周治療のプロフェッショナル衛生士の育成に尽力している。
PROFILE
前池綾乃(まえいけ・あやの)
NDL株式会社が主催するミントセミナーの受講をきっかけに、人材教育の道に進む。2018年、歯科医院訪問研修をスタート。2021年、著書「よくわかる超音波スケーラーのきほん」発売。2024年、Dental Ring株式会社を設立。日本歯周病学会認定歯科衛生士。大阪府泉大津市にあるとしな歯科医院所属。
Dental Ring株式会社
https://maeike-ayano.com/
https://www.instagram.com/ayano_maeike/

―歯科助手として歯科医院に勤務していた後に、歯科衛生士の資格を取得されたそうですね。
前池 地元の歯科医院に歯科助手として勤めていたのですが、寿退社などで歯科衛生士さんが一人もいなくなってしまったんですよ。それで、アシスタントとして色々経験させていただくうちに楽しくなってきまして、歯科衛生士を目指そうと考え始めました。非常に厳しい先生だったのですが、「前池さんが歯科衛生士になったらすごい歯科衛生士になるよ」と言われて、それを鵜呑みにしたのもありますね(笑) それで、24歳で専門学校に入学したのですが、学費を稼がないといけませんでしたので、日中は専門学校に通って、夜遅くまで診療している歯科医院で夕方からアルバイトという生活でした。テスト期間中も夜まで働いていましたので、すごく勉強したつもりはなかったのですが、やはり現場を知っていることは大きかったですね。教科書の内容と現場での知識が一致して、スムーズに理解できたこともあり、首席で卒業することができました。
―歯科衛生士になってすぐにセミナー講師を目指されたとお聞きしました。
前池 歯科衛生士1年目のときに、院長先生からの勧めで、長谷ますみ先生のミントセミナーを受講させていただきました。そこでインストラクターをされていた方がすごく格好よくて、私もあんな風になりたいなと思ったんです。そこから、全てのセミナーを受講して、顔も名前も覚えていただけるまでになり、自らインストラクターになりたいと志願し続けて、ようやく認めていただけました。通常ですと、インストラクターになられる方は研修先などでスカウトしてくるケースがほとんどらしいのですが、私のように自らアピールしたのは珍しかったようです(笑)

―そこからフリーランスとして研修事業を行うことにつながるわけですね。
前池 もともと人に教えることが好きだったこともありますが、先ほどお話したように、勤務先の事情もあり歯科助手時代から人に教えることが多かったこともありまして、歯科衛生士になって間もないうちから人材育成の道に進みたいと考えていました。まだまだ世の中にはSRPをはじめとしたメインテナンスがしっかりできていない歯科医院が多くあります。しかも、医療に向き合う以前に、人間関係など診療以外でのストレスが大きく、うまくいっていない歯科医院も多い中で、そういった人たちの力になりたいという想いで始めました。
―最初はオンラインだけでのセミナーをされていたそうですが?
前池 実際に歯科医院に出向いての出張院内セミナーをやりたいと考えていたのですが、起業するタイミングでちょうど2人目、3人目の出産が続きまして、子育てが落ち着くまでは難しいなと。じゃあ在宅でできることはないかと考えたのが、オンラインでのセミナーや症例検討会でした。オンライン講座を始めたのが2019年でしたが、まだその当時はオンラインでのセミナー自体がなかっただけでなく、ほとんどの人がWEB会議システムを使ったことがないような時代です。まずは使い方のレクチャーからのスタートで、「こんなことで仕事になるのですか?」と笑われたり、Facebookに誹謗中傷を書き込まれたこともありました。
―新しいことを始めようとすると、どうしても批判はあるものですね。そのような状況でうまくいったのですか?
前池 オンラインでの症例検討会となりますと、当然ながら生身の患者様を診ることができないわけですから、しっかりとした資料を提出してもらわないと話が始まりません。そのため、より深く考察することになり、受講生の方々も「資料だけでここまで読み取って考えるようなセミナーは初めてでした」と仰られていました。

―現在は、歯科医院での院内研修をメインにされているそうですね。
前池 セミナーを受講していただいた方々から、「臨床現場で実際に見て指導してほしい」との要望が多く、子育ても一段落したことから、歯科医院研修をスタートしました。オンラインはもちろんですが、リアルのセミナーにしても臨床現場ではなく会場に来ていただく場合は、当日に模型上で手技ができたとしても、実際の患者さんに対してはうまくいかないという課題がありました。また、誰か1人の歯科衛生士さんのやる気があっても、他のスタッフ全員が同じ気持ちということはほとんどありません。やりたくない人もいますし、どちらでもいいという人もいます。その人だけが頑張っても歯科医院の成長にはそれほど繋がりません。それこそ、その方が結婚や出産で職場を離れることになれば、その歯科医院は元に戻ってしまいます。そのため、歯科医院全体で取り組む文化を作っていくために臨床現場での研修に力を入れています。
―特に歯周病治療に力を入れているそうですが?
前池 臨床現場では、中等度以上の歯周病治療が一番難しく、そのことで悩んでいる歯科衛生士さんが多いです。SRPや超音波スケーラーが上達しないとか、OHIがうまくいかないですとか。しかも、まずは歯周病治療としてプラークコントロールやバイオフィルムの除去をしっかりやらないと、結局カリエス予防もできないんですよね。ですから、「歯周ポケット6mm以上の歯周病に対応できる」をコンセプトに、歯周治療のプロフェッショナルの育成を主眼に置いています。また、予防メインテナンスの仕組み作りやリーダー育成にも力を入れています。

―最後に、今後の展望を教えて下さい。
前池 株式会社を設立して約2年になるのですが、今までは私個人で仕事をしてきました。そうなると私が将来死んでしまったときにこの事業が残りません。それでは意味がないと思いまして、次世代までこの事業を残していくために、インストラクター兼講師を任せられる歯科衛生士の仲間を育てようと頑張っています。目標としては、3年で15名。その15名が2名ずつ育ててくれれば45名になります。47都道府県全てに講師がいるような状況を作ることが理想ですね。あとは、歯科医院単位の研修ではなく、個人でセミナーを受けたい人のために、東京と大阪だけでなく開催エリアを広げていきたいと考えています。
