人材育成を通じて予防歯科の未来を築く

予防歯科に必要なメンテナンス技術をはじめ、仕事への向き合い方や自分で考える力の養い方など、現実的な学習内容で人気の『片山塾』。歯科衛生士歴30年を超える片山さんが、自身の臨床の傍ら、日本における予防歯科の確立のため、次世代の歯科衛生士育成に力を入れるその想いを伺いました。(2021年5月取材)

PROFILE

片山章子(かたやま・あきこ)

東京・恵比寿にある『プレミアム デンタルケア 恵比寿・代官山』にて臨床を続けながら、歯科衛生士育成のため、セミナーや院内研修など多方面で活躍。受講者と深く関わり、一緒に考えていくスタイルが評判となっている。

Studio Chick
http://dh-katayama.jp/


―予防歯科の普及をテーマに、セミナーや院内研修、講演など行っている片山さんですが、予防歯科に注力するきっかけは何だったのでしょうか?

片山 私が歯科衛生士の資格を取得して地元の歯科医院で働きだした頃は、まだ予防歯科という言葉自体に聞き馴染みもなく、今のように歯科衛生士が専門業務を行える歯科医院も少なかったように思います。結婚を機に上京して、ようやく歯科医師のアシスタント以外の歯科衛生士業務を任され歯周病治療に携わりましたが、それまでクリーニングの経験しかありませんでしたので、どうしたら良いか分からず戸惑うばかりでした。歯科衛生士としてのスキルが全く足りていないことに気付かされ、自分の無力さを思い知らされました。このままでは患者さんに対して何も貢献出来ないと痛感したわけです。そこから、歯科衛生士のスタディグループに所属したり、テーマを絞らずに様々なセミナーに参加するなど、出来るだけ多くの情報と知識を得るように努めました。そんな中で、スタディグループで出会った歯科衛生士の方が予防歯科に力を入れている歯科医院に勤められていて、それが縁で私もその歯科医院に勤めるようになったのがきっかけです。

―片山さんのおっしゃる通り、当時はまだ予防歯科は一般的ではなかったと思いますし、ご苦労もあったのではないですか?

片山 当時は、歯が痛い、詰め物が外れたなどの理由で来院される患者さんばかりでしたので、治療が終われば通院されることはありません。まずは、予防歯科の重要性を知っていただかなければいけないのですが、「痛くもないのになぜ通わなければいけないのか?」という反応ばかりで、非常に大変でした。

―そのような中で、どのように患者さんにアプローチされたのですか?

片山 むし歯も歯周病も段階があり、軽度であれば適切なケアで回復させることが出来ます。例えばむし歯の場合、穴が開いてからでは削る治療になってしまいますが、穴が開く前であれば削らずに回復させることが出来るわけです。そういった情報を患者さんに知っていただき、メンテナンスの重要性をプレゼンすることで、徐々に患者さんの意識が変わっていきました。また、言葉だけでは伝わらない面もありますので、ビジュアルでお見せすることも意識しました。口腔内写真を患者さんにお見せすると、歯肉の色の違いなどの異変に気付かれることが多いのですが、そういった気付きが疑問に変わり、自身の口の中に関心が向くケースが多いです。そういった意味でも、ご自身の口腔内をよく知っていただくことが予防歯科の第一歩だと考えています。そこから、プロケアだけでなくセルフケアの大切さをご理解いただけるようにお話させていただき、それぞれの患者さんに合わせて行動変容を促していく形です。これらは、あくまで患者さんとの協働作業ですので、「一緒に取り組みましょう」というスタンスが重要だと考えています。

―主催されている片山塾ではどのようなことを教えていらっしゃるのでしょうか?

片山 数年前に、「個別対応のメンテナンスデザイン」という著書を出版させていただいたのですが、その制作にあたり、患者さんのメンテナンスをはじめ、自分がこれまでやってきたことを全て整理出来た気がしました。この書籍の内容を具現化して学習することで、多くの歯科衛生士の手助けにならないかと思い、スタートしたのが片山塾です。「一つひとつの臨床技術と技術の探求」、「日常臨床の実際を話す」、「臨床に直結する現実的な学習内容」の3つのポリシーを掲げ、まず講義でWhy(なぜ、そう考えるのか)を学び、実技講習でHow(具体的な手技方法)を習得するスタイルで、体系的に深く学ぶことが出来る構成にしています。いくらHowの部分を教えても、Whyの部分を学ばないとあまり意味がありませんし、技術的な向上のスピードも全然違ってきますから。また、仕事への向き合い方や自分で考える力を養うことにも重点を置いています。よく、自分の手技や考えに自信を持てない受講生がいらっしゃいますが、それは過去に誰かに「それは違う」と否定された経験が原因だったりします。支配による萎縮は、本来誰もが備えているはずの「自分の頭で考える力」の邪魔になります。ですから、片山塾ではベースとなる知識はもちろん、ディスカッションなどを通して自身の思考に自信を持つことが出来るサイエンスを学んでいただけると思います。

―院内研修ではどのようなことを行っているのでしょうか?

片山 教える内容については片山塾とそれほど変わりませんが、院長をはじめクリニックのスタッフ皆さんが対象という面で大きく違ってきます。環境や規模によってクリニックも様々ですし、院長先生が考えるスタイルもそれぞれです。そういった部分を重んじながらも、課題を抽出し目標達成のための道筋を考えていきます。スタッフ皆さんと一緒に新たなものを作っていくということで、私自身、大変さもありますが面白さもありますね。片山塾同様、院内研修でもスタッフの意識改革に重きを置いていまして、「誰かが言った、院長が決めたではなく、あなたがどう考え、どうしたいのか?」ということを必ずお伝えしています。人それぞれ、他人と違う考え方があって当然ですし、その差異を認め、当事者意識を持ってどんどんチャレンジしていくことが大切です。これは、現に私自身が経験したことでもありますし、一人ひとりが自分の立場でしっかり考え行動することが、医院としてのレベルアップの近道だと思います。

―講師業でお忙しいにもかかわらず、歯科医院での臨床も続けていらっしゃるのですね。

片山 勤務先である『プレミアム デンタル ケア 恵比寿・代官山』にて、フルタイムで週3、4日臨床をさせていただいております。歯科衛生士は、患者さんと20年、30年向き合わないと成果が証明出来ない仕事です。「何も起こらなかった」「悪化しなかった」ということを、患者さんやチームのメンバーと一緒に繰り返し確認していかなければなりません。そうやって深く深く一人の患者さんを診ていくことが自分の成長に繋がると考えています。日々の臨床と講師業の両立は体力的にも精神的にも大変ですが、講師業をさせていただいている以上、自分自身のレベルアップは欠かせません。歯科衛生士として働いて、30年以上経ちましたが、日々、新たな発見の連続です。メンテナンスの成果を証明出来るのはまだまだ先ですから、生涯現役歯科衛生士として頑張っていきたいと思っています。

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